コミュニティー考現学第1回「タウンコミュニティーのふるさとを訪ねて」:デザインショップまちや

試行錯誤を繰り返す、英国・地域再生政策

ブリストル駅
ブリストル駅(右)

イギリスという国は、世界で始めて産業革命を経験し、<都市>を作り出すことで経済的な繁栄を極めました。そして2つの世界大戦を経て、アメリカや日本など新興国が台頭する一方、イギリスは世界的な競争力を失い、企業の倒産、失業者の増加、そして都市そのものの活力低下を経験することとなります。当然、それは首都ロンドンだけの話であるはずがなく、イギリス全土で地域活力の衰退、そして荒廃が社会問題となっていきました。政府は、地域社会の再生を重要な政 策課題として掲げ、1960年代以降、次々と地域再生のための政策を実施しましたが、そのどれもが成功とは言いがたい結果に終わっていきます。

しかし、多民族国家・イギリスにとって地域社会の荒廃は、国そのものの足元を揺るがしかねません。1990年代、これまでの行政主体型から住民参加を積極的に促す政策に方向転換します。名ばかりの地域再生プロジェクトに慣れっこになっていた住民たちも、今度の政策は何かが違う、と感じ取ったようです。1990年代からの10数年の間で、住民主体型・地域再生事業の成果が次々と報告されるようになりました。地域再生という日本の今日的課題をすでに50年 近くに渡って試行錯誤を繰り返してきたイギリスに、私たちが学ぶことは少なくないと思えます。

イギリスのコミュニティー再生活動についての詳しい書籍が出版されていますので、本レポートとあわせて、ぜひご購読をおすすめします。
「イギリスの持続可能な地域づくり」中島恵里 著(学芸出版社)

なぜ、ブリストルなの?

イ ギリス全土におけるこういう流れの中で、1980年代から地域再生プロジェクトを数多く実施し、成果を挙げてきた地域があります。ロンドンから電車で1時間半、イギリス南西部最大の都市<ブリストル>という港町です。今回の訪英では、ブリストル市のイーストンとウィンドミルヒルという2つの町を訪ねました。書籍を通して出会い、どうしても自分の目で確かめてみたい、と思った町です。場所さえも正確にわからない中での取材でしたが、通訳をお願いした早川里緒菜さんの活躍もあり、書籍だけでは見えてこない「何か」を感じることができました。その「何か」をお伝えしたいと思います。

ロンドンからブリストルへの行き方パディントン駅4番ホームからでる電車に乗り、約1時間40分。途中BATHという町(この町の名前が風呂を意味する「バス」の由来)という美しい町を経由して、「ブリストルTM」駅着。パディントン駅ブリストルTM駅間の電車は30分おきに出ている。ただし、ブリストルTMからの電車は夕方以降1時間に1本となるので時刻表を確認して動く方がベター。
・料金:往復で38ポンド。ただし午前9:30までの電車は108ポンド ※2005年10月の情報です

大変だ!コミュニティセンターが閉鎖になっていた

イーストンコミュニティセンター
イーストンコミュニティセンター

イーストンの町はブリストル市街地からバスで15分ほどの小高い丘の上にある。2-3階建てのレンガ造りの家が並ぶ。どちらかといえば低所得者層が多く暮 らすといわれる町で、様々な民族の文化を理解しあうことが住みよい町を再生することの第一歩だと位置づけ、多額の補助金と住民の熱意によって、様々な活動 が展開された。
住民と行政のパートナーシップによる地域再生プロジェクトは様々なメディアで取り上げられ、イーストンコミュニティセン ターを中心にしたそのコミュニティー活動は、コミュニティー再生の成功事例として認められている。我々は疑いもなく大きな期待を胸に抱きつつ、コミュニ ティセンターの扉に手をかけた。が、扉が開かない!
その時、近くにいた黒人男性から「閉まっているよ」と声をかけられた。アポイントは取っていることを告げると「2時に食事から戻ってくる」との答え。どう やらスタッフはいるが、センター自体は閉鎖しているらしい。何か事情がありそうだ。とりあえず、2時までの時間を利用してイーストンの町を見学することに した。町なかには手作りの柵を施した「コミュニティパーク」と呼ばれているオープンスペースなど、地域住民による地域再生活動の臭いがぷんぷんとする。

イーストンの街中
イーストンの町なか
イーストンコミュニティセンター(Easton Community Center)への行き方:「Bristol TM」駅から、市の中心市街地にあるThe Centre Promenadeまでまずは移動。BALDWIN STREETからバスに乗ること約15分。丘の上のイーストン(Easton)に着く。 バスはイーストンコミュニティセンターの前は通らないので、バス からの風景だけでは降りる地点を判断するのは難しい。乗車前にバスの運転手に行き先を伝えておけば、下りるバス停に着いたときに教えてくれる。

地域の芸術家と住民とのコラボレーションでつくりあげたコミュニティセンター

ロバート氏
ロバート氏

途中パブに立ち寄り地元住民との接点を楽しんだ後、2時すぎにコミュニティセンターに戻ることに。入り口脇のベルをならすと、40歳ぐらいのインド系の男性が現れた。名前はロバート。12年前にこの地に移ってきて、コミュニティセンターの職員として働いている。コミュニティセンターが建設されて16年になるので、その歴史をほぼいっしょに作ってきた人だ。「今年の3月に閉鎖されて、同僚はみな首を切られた。みながいなくなった最初の2ヶ月は墓場にいるみたいだったよ。昔のいろんなことが思い出されてたまらなかった」と彼はセンターが閉鎖された時の事を語ってくれた。

センターの中に入れてもらった。地元のアーティストたちと子どもたちが共同で描いた壁の絵や様々な活動のインフォメーションを見れば、このセンターがどれほどの役割を担ってきたのかは一目瞭然だ。しかし、一時とはいえ閉鎖されている今は、自然とむなしい感情がわき起こってくる。ホールにある椅子に腰をかけ、事の経緯をきくことにした。というよりも、ロバート氏の方が誰かに話したくて仕方のない様子だった。ロバート氏によると、要するに財政破綻による閉鎖だということだ。同センターは施設の賃料やアクティビティへの参加費収入などによって若干の収入はあったものの、多くを頼っていた行政の財政支援だけでは メンテナンスやランニングコストの遣り繰りが難しくなり、とうとうコミュニティセンターを閉鎖せざるを得なかったということだ。とはいえ、このコミュニ ティセンターを中心に生まれた様々なコミュニティー活動は「他のコミュニティセンターで活動を続けている」ということらしい。ほっと胸をなで下ろす。

壁画
コミュニティセンター内の壁画

一方、我々が楽しみにしていた地域のコミュニティー新聞「プラネットイーストン」は3年前に廃刊になっていた。理由は編集社を乗っ取ろうとした輩がいて、双方でもめているうちに発行しなくなったそうだ。不可解な理由ではあるが、いずれにしても「プラネットイーストン」は今はない。かつて編集された新聞の予備が残っているからと分けてもらった。中を開くと地域のコミュニティーに関連する記事だけでよくぞここまで魅力的な新聞ができるものだと、驚いた。これではコストだって馬鹿にならない。なんたって全住民に無料で配布していたのだから。

コミュニティセンター
コミュニティセンター内の諸施設
プラネットイーストン:planeteaston

新しい運営ボランタリーグループ「TOC H」への期待

一時閉鎖という状況下ではあるが、ロバート氏の顔には悲壮感だけではない様子がうかがえる。というのも、破綻したこのセンターの運営を市当局から借り上 げ、これから30年にわたって運営をおこなっていくグループがすでに決まっているのだそうだ。そのグループの名前は「TOC H」。なんと90年前から様々なコミュニティー活動を支え、成功事例をたくさんもつチャリティー団体で、市当局の信頼も大変に厚いとのこと。彼らが運営を担うことによって、イーストンコミュニティセンターはイギリス内だけでなくヨーロッパの様々な財団から間接的に資金援助を受けることができるようになるらしい。ロバート氏は「TOC H」がイーストンの地域や住民たちにはやく溶け込み、円滑な運営を実施していくためのキーパーソンとして選ばれたのだそうだ。

ロバート氏
ロバート氏は熱心にインタビューに答えてくれた

ロバート氏へのインタビューは2時間以上に及んだ。通訳嬢いわく、こちらの用意した質問にはほとんど答えずにいろんな話をしだすのだとか。3回同じ質問をしても質問に対する答えがまともに返ってこなかったこともあったという。「この町のことを知らないのではないか」という私の質問に通訳嬢は「あんなに熱く語る人が、よその人のはずはない」との答え。通訳嬢のこの言葉によって、私は彼のことが少し理解できたような気がした。自分の街を心から好きになってしまうと話が脱線することはよくあることだ。

イーストンコミュニティセンターは今年の11月には再スタートする。いや、本当の意味でのスタートなのかもしれない。自分の住んでいる町に対して、あれほどに熱い思いを抱くロバート氏のような人物がいるのであれば、お金も実績もある新しい運営母体と協力して、以前にも増して活発なセンターに戻すことは難しいことではないだろう。再スタートの後、もう一度この町を、そしてロバート氏を訪ねてみたいと思う。街は人がつくるものだから。

ロンドンからブリストルへの行き方パディントン駅4番ホームからでる電車に乗り、約1時間40分。途中BATHという町(この町の名前が風呂を意味する「バス」の由来)という美しい町を経由して、「ブリストルTM」駅着。パディントン駅ブリストルTM駅間の電車は30分おきに出ている。ただし、ブリストルTMからの電車は夕方以降1時間に 1本となるので時刻表を確認して動く方がベター。
・料金:往復で38ポンド。ただし午前9:30までの電車は108ポンド

取材後記

今回の訪問はセンターが一時閉鎖しているという、非常に悪いタイミングで訪れたようにも思えるが、実はこのプロジェクトのもうひとつの側面を知る上で、また行政主導型から民間主導型へ移行する、まさに「現場」をおさえられたという点でいけば、絶好のタイミングだったのかもしれない。地域のコミュニティー の再生という公的意味合いの強い事業とはいえ、行政からの支援に多くを頼りすぎたプロジェクトを持続していくことがいかに難しいことなのか、目の当たりにした思いがする。(取材日:2005年10月)