コミュニティー考現学第1回  タウンコミュニティーのふるさとを訪ねて(1)~世界最初の田園都市「英国・レッチワース」~:デザインショップまちや

田園調布や国立の街づくりのお手本 ~英・レッチワース~

レッチワース駅
レッチワース駅

ロンドンから北へ50kmの地に世界最初のガーデン=シティ(田園都市)、レッチ―ワースは建設された。今では、当時、レッチワース内に誘致された軽工業の工場も、衰退し、IT関連のオフィスビル等に、改装され、産業構造の変化に合わせて様変わりしている。住人も、また、労働者中心のコミュニティーから、様変わりしているようだ。そんな実態を探る為、ロンドンから、電車に乗り込み、レッチワースへ、出掛けてみる。

乗車時間、40分、ロンドン発ケンブリッジ行きの快速電車は、定刻通り、レッチワース駅のホームに滑り込んだ。ロンドンへの通勤者も多いと聞くが、これくらいの時間なら、毎日の通勤も、可能だと思う。イギリスの面白い所は、一九世紀から発達した鉄道網のお陰で、密集した市街地から、一時間も離れれば、緑豊かな田園風景が広がる農村地帯に到達できる。グリーンベルト(農地など)と言われる緑地帯が、ロンドン都市圏を囲い込んでいる為、都市が、無秩序にスプロールすることを抑制しているからだ。この地域計画的な手法は、人口わずか3万3千人のレッチワースの小さな町にも、有効に活用され、その緑溢れるクオリティを維持している。

レッチワース(Letchworth):イギリスの経済学者エベネイザー・ハワードが目指す、『労働者にも、快適な住環境を、そして、緑溢れる田園風景の中での、職住近接』という理念の下、約百年前の1902年から、その理想郷は、着工された。
レッチワースの位置
レッチワースの位置

99年の賃貸契約書にサイン

ハワードは、1902年、投資家を募って、世界初の田園都市株式会社(First Garden City Ltd.)を設立する。庭付きの一戸建て住宅(Detached House)、あるいは一棟に二世帯が共存するセミ=ディタッチド=ハウス(Semi-Detached House)などを主流に、町は作られていった。その所有形態も99年のリースホールド(賃貸)に定めることで、会社自体が町の所有者、そして、経営者であった。住人は契約時に、庭の手入れの義務、また、建物の改造の制限など、厳しい条件を合意させられている。個人の家だけでなく、住民全体の『公共スペース』としての公園や通りにも愛着を感じて気を配る事は、住民の仲間意識やコミュニティーを形成し、それ故、町の防犯・セキュリティー対策にも役立っているようだ。

一戸建て住宅(Detached House)
一戸建て住宅(Detached House)

セミ=ディタッチド=ハウス(Semi-Detached House)
セミ=ディタッチド=ハウス(Semi-Detached House)

田園都市株式会社:産業革命後、急速に発達した工業化、都市への爆発的な人口流入、そして、そこで発生した都市のスラム化など、市民の住環境は、劣悪を極めるに至った。そのような社会に対する改善策、あるいは、警告としての救済策としての、革命的発足であった。とりわけ、低所得の労働者にも、自然と共に暮らし、ゆとりある住まいを供給するという理想論の実現を目指したものだった。
99年のリースホールド(賃貸):当初は、分譲ではなく、九九年契約の賃貸形式をとっていたが、労働党のサッチャー政権下、低所得者用に開発されたアパートも、世帯主が購入できるよう法が改正される。現在、レッチワースの大部分を所有するレッチワース田園都市財団は、これにより、豊かな資金を獲得し、公園や、通りのメンテナンス、あるいは、商店街の維持管理費等の補助に当てている。
町の防犯・セキュリティー:最近、都市問題として飛躍的に取り上げられているのが、防犯・セキュリティーだ。ロンドンのオフィス街では、殆どのビルにCCTV(防犯カメラ)が設置され、驚く事に、赤い二階建てバスでお馴染みのロンドン=バスの中にも、このカメラは設置されている。二十四時間、監視の目を光らせないといけないほど、都市は危険に晒されている。この防犯に対する質問にも、殆どの人が、全く危険を感じた事がないと答えた。この安全な町を理由に、子育て目的に移り住む若い夫婦も多いようだ。

街頭インタビュー「レッチワースってどんな街?」

このレッチワース、現在では、当時の計画人口、3万2千人を千人ほど超えたところで落ち着いている。町の中心には、鉄道駅、小売店が軒を連ねる商店街、そして、住民の胃袋を支えるスーパー=マーケットも整備され、自給自足とまではいかないが、自己完結型の都市として機能している。では、実際にレッチワースに住む住民に、その住み心地を尋ねてみると、ほぼ100%の人が快適で満足していると答えた。例えば 、「静かで、落ち着きのある街並みが気に入っている。」(30代女性)、「緑が豊かな通りや公園を散歩する事は、健康的だし、歩く事が楽しい、五十年間、この町に暮らしているけど、車なんて、必要ないわ。」(50代女性)。ただ、若者にとっては、商店街が、夕方6時には、殆ど、閉店し、夜の遊びがないのが、不満らしい。それも、5~6キロ離れた近郊の町に繰り出せば、バーやナイトクラブがあるので、それ程、問題ではないらしい。実際、日本の花見からヒントを得たという、花が咲き誇る並木道や、深い緑に包まれた公園を歩くと、何時間歩いていても飽きない程、心地が良い。日常生活に必要な買い物は商店街で間に合うため、手荷物が少ない時は歩いて買い物に出掛ける人も多いという。もちろん、気分に合わせて公園を横切り、また、通りを変えながら家路へと向かう。外部空間である公園や通りが、住人にとって最高の散歩コースになっているのだ。

コミュニティのまとめ役<LALG>

ウイリアム氏
ウイリアム氏

では、何が、こういった安全で、暮らしやすい町を、そして環境を作り出しているのだろうか?一つは、今では所得の高い人が好んで移り住むようになったことが挙げられる。家賃も、それなりに高い為、犯罪を引き起こす可能性の高い低所得者、あるいは、浮浪者などの職を持たない人間が住みにくくなっているからだ。そして、二つ目は、住人同士、顔見知りが多く、町全体が一つの集落、コミュニティーを形成している為ではなかろうか?

町の集会所の掲示板
町の集会所の掲示板

実際、住人参加のサークル活動も活発で、絵画や陶芸などのアート、音楽・映画鑑賞会、スポーツクラブなど多数あり、その企画委員会なども設置されている。そこで、このレッチワース=アート=アンド=レジャー=グループ(LALG)を組織するウィリアム氏を訪ねてみた。彼の本業は、商店街の一画にある、豊富な品揃えと、味のある雰囲気の良い本屋の主だ。本屋の軒先には、一冊わずか50ペンスや1ポンド(50円と100円)の中古本が陳列し、通りを歩く人の関心を惹き付けている。ショップ=ウィンドウは、レッチワースで催されるイベント情報、個人情報などを紹介する掲示板としても、機能している。

情報誌表紙
情報誌表紙

筆者:「レッチワース、アートギャラリーの学芸員、ロザモンドさんから、紹介されてきました。レッチワースのコミュニティー活動について、お聞かせください。」
ウィリアム氏:「もちろんだよ、それに、レッチワースほど、コミュニティー活動が盛んな町は、他に、ないからね。」
筆者:「例えば、どんなものが、あるのですか?それと、委員会を組織していると聞きましたが、その運営方法や、成功の秘訣とか、教えていただけますか?」
ウィリアム氏:「まずは、この情報誌を見てごらん。ここに、いろんなサークルや、その活動内容を紹介しているよ。月に、一回発行して、会員の家庭に送ってるんだ。あー、そうそう、メンバーの会費は、一世帯で、7ポンド(1400円)と手頃で、現在、1200世帯が加入しているよ。わし達、委員のミーティングの会場は、特に、決まってないねー。それが、長く、失敗なく、やっていく秘訣だよ。町の喫茶店や、パブ、誰かの家(うち)、この本屋でだって、ミーティングをやってるよ。決まった会場を借りると、経費が嵩むし、長続きしないよ。気軽に、やっていくのが、一番だよ。」
筆者:「特に、面白い活動内容は、何ですか?若者も参加しますか?」
ウィリアム氏:「もちろんだよ。16~18歳の学生には、パブリック=スピーチの指導もしてるよ。皆の前で、上手く喋れるように特訓するのさ。メンバーが自慢の庭を紹介し、ガーデニングのノウハウを教えあったりするのも、人気だよ。うまい紅茶を飲みながらね。」
以下省略

レッチワースを語る時のウィリアム氏は、誇らしげで、とても、嬉しそうだった。

素朴で、のんびりした村のような町、労働者のためにと謳った、田園都市は、中・上流階級の人が都会の喧騒から離れ、ゆっくりとした時間の中で、暮らす町へと様変わりしている。しかし、自然の破壊を前提とする都市化への、一種の蜂起運動として、ハワードが提唱した田園都市構想は、百年経った今、掛け替えのない住環境を築き上げ、彼の先見性の確かさを世に証明している。

LALG(Letchworth Arts and Leisure Group)レッチワース=アートと余暇の会:レッチワースのコミュニティー活動を支援するサークル団体の代表的なもの。一世帯あたりの年会費、七ポンド(約千四百円)。会員になれば、登録している商店の全商品一割引という特典もある。
四月の主な活動内容
ケルムスコット館への遠足:
参加費:会員二七ポンド(約五千四百円)、非会員三〇ポンド(約6千円)
パブランチ:
パブに集まり、昼食やビールを楽しむ。
ゆっくり歩く会:
散歩好きだけど、普通の速度で歩けない、ゆっくりとした速度で、散歩を楽しむ人の集まり。
パワー=ウォークの会:
陸上競技の競歩や、引き締まった肉体作りに興味のある人が集まる会。
若者と社会人が集まって、アイデアや経験など、意見交換をする会
読書会:
毎月、一冊、本を決めて、みんなで、読書し、それぞれが、感じた事などを意見交換する。
他、各種スポーツ=クラブ